株式投資に興味がある方なら、一度は耳にしたことがある「IPO」(新規株式公開)。
IPOを行うことで、企業は一般投資家に株を売却し、資金を調達します。しかし、IPOを実施する企業はごく一部に過ぎません。実際、日本企業全体のうち上場している企業はわずか0.1%に過ぎず、大半の企業は非上場のまま経営を続けています。
では、なぜ企業はIPOを目指すのでしょうか?
逆に、なぜ多くの企業がIPOを選ばないのでしょうか?
今回は、企業がIPOを目指す理由、そのメリットとデメリット、さらには上場以外の選択肢について詳しく解説していきます。
Contents
IPO(上場)のメリットとは?
IPOを目指す企業にとって、最も大きなメリットは資金調達の幅が広がることです。上場企業は株式を発行し、一般投資家に売却することで資金を調達できます。
これにより、企業の成長に必要な資金を集めることが可能になります。では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
幅広い資金調達が可能になる
IPOを実施する最大の目的は、広く資金を調達することです。上場前の企業は、資金調達方法が限定されており、経営者自身の資金や、銀行からの融資、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資などに頼る必要があります。
特に、銀行からの借入は返済義務があるため、企業にとって大きな負担となることがあります。
一方で、上場を果たすと、企業は一般投資家から資金を集めることができるようになります。
株式を発行して得た資金は「資本」として扱われるため、銀行からの借入金のように返済義務がなく、企業の負債を増やさずに財務基盤を強化することができます。
これにより、企業はさらなる成長や事業拡大に必要な資金を確保しやすくなります。まさに、事業に大きくレバレッジをかけることができるということですね。レバレッジをかけることで、攻め込んでいる市場で競合に追いつき追い越す機会が生まれますし、また他の競合を買収するなど、様々な選択肢が生まれるのです。
生かすも殺すも経営者次第ではありますが、好機には違いありません。
例えば、あるスタートアップ企業がIPOを実施し、一般投資家から数十億円の資金を調達した場合、その資金を使って新規事業を展開したり、海外市場に進出するための準備を進めたりすることができます。
IPOを行うことで、企業は成長のための資金調達手段を広げることができるのです。
参考:ファクタリングによる資金調達とは?
企業の信用力が向上する(融資枠・知名度による販売促進・採用)
IPOには厳しい審査があります。証券取引所に上場するためには、企業は財務状況や内部統制の仕組みなど、さまざまな条件をクリアしなければなりません。
この厳しい審査を通過することで、企業は市場からの信頼を得ることができます。
上場することで企業の信用力が向上し、さまざまなメリットが得られます。まず、銀行からの融資枠が広がることが期待できます。
上場企業は財務状況が透明で、信用力が高いと判断されるため、銀行からより大きな融資を受けやすくなります。
また、上場により企業の知名度が向上し、製品やサービスがより多くの消費者に知られるようになります。これにより、売上の増加が期待できるほか、取引先との交渉でも有利な立場に立つことができます。
さらに、上場企業であることは、優秀な人材を確保するための強力なアピールポイントにもなります。
多くの求職者にとって、上場企業は安定した職場であると認識されているため、より多くの応募者が集まりやすくなります。特に、技術力やスキルが高い人材を確保したい場合、上場企業であることは大きなメリットです。
経営者やベンチャーキャピタルにとってのリターン
IPOは、経営者やベンチャーキャピタルにとっても大きなリターンをもたらす可能性があります。
未上場時に株式を保有していた経営者や投資家は、上場によってその株式の価値が大幅に上昇し、巨額の利益を得ることができます。
例えば、リクルートが上場した際、多くの従業員が「億り人」となったことが話題になりました。
リクルートの従業員は、未上場時に自社株を保有しており、上場後にその株価が急騰したため、一気に大きな資産を手に入れることができたのです。このように、IPOは初期の投資家や従業員にとっても非常に魅力的なイベントとなります。
ベンチャーキャピタルからの資金調達の最大のメリットは、返済義務がなく、失敗時のリスクが低い点です。資金提供により自社の純資産が増えることで、金融機関からの評価が向上し、融資を受けやすくなります。
また、信頼度の高いベンチャーキャピタルからの投資は企業価値の向上にもつながります。さらに、経営ノウハウやネットワークを活用できるため、事業成長や販路開拓の面でも大きなメリットがあります。
参考サイト:
IPO(上場)のデメリットとは?
IPOには多くのメリットがある一方で、大きなコストやリスクも伴います。企業がIPOを目指す際には、そのデメリットもしっかりと理解しておく必要があります。
上場にかかるコストが高額
IPOを行うためには、まず証券取引所に上場するための手数料が必要です。
例えば、プライム市場に上場する場合は約400万円、スタンダード市場では約300万円、グロース市場では約200万円の手数料がかかります。
ただ、この程度のコストで踏ん切りがつかないようでは、利益体質に問題がありますので上場はそもそもすべきではないですね。ただ、以下の追加コストもあります。
IPOを実施するためには、監査法人や証券会社、IPOコンサルタントなど、多くの専門家のサポートが必要になります。
これらの専門家に支払う報酬も高額であり、監査法人への支払いだけでも数千万円が必要です。また、証券会社の主幹事報酬も数百万から数千万円に上ることがあります。
これらを合計すると、IPOを準備するだけで5000万円以上のコストがかかることも珍しくありません。そして、上場後も維持費として毎年数百万から数千万円の費用が発生します。企業にとって、これらのコストは無視できない負担となります。
ただ、上場後は市場から調達し事業にレバレッジを掛けられるのですから、トータルで考える必要があります。
ただ上場後に株価が上昇せず、低迷を続けるようであればどんどん自社の首を絞めていくことになりますね。上場する前も、上場した後も、経営者は本当に大変ですよね。
上場後の管理コストも高い
上場後には、企業の財務報告や内部統制に関して厳しい基準が求められます。上場企業は定期的に会計監査を受けなければならず、そのためには監査法人への支払いが毎年発生します。
このコストも数千万円規模となり、企業にとっては大きな負担です。
また、上場後は社内の体制も強化する必要があります。経理部門を拡充し、内部統制を行うための専任チームを設置するなど、人材の増強が求められます。これにより、人件費も増加し、年間で億単位のコストがかかることもあります。
上場ゴールのリスク
IPOを実施した企業の中には、上場を一つのゴールと捉えてしまい、その後の成長戦略が停滞するケースがあります。いわゆる「上場ゴール」となってしまう企業も存在します。
たとえば、2014年に上場した株式会社gumiは、上場直後に業績悪化や不祥事が相次ぎ、株価が急落しました。このように、上場が目的となり、企業の成長戦略が疎かになるリスクも存在します。
上場ゴールして経営者が株式を売り、その後業績低迷となると、市場参加者から資金を集め売り抜けたことになりますので、上場ゴールだけは本当にやめて欲しいというのが筆者のような投資家としての願いです。
上場企業の経営は本当に大変だと思いますが、その道を選んだのであれば頑張って欲しいですよね。
上場以外の経営者の利益を追求する手段とは?
IPOは企業にとって一つの選択肢ですが、上場以外にも成長や経営者の利益を追求する手段があります。その代表的なものが、**M&A(企業の合併・買収)**です。
M&Aによる成長戦略
M&Aは、企業が他社に買収されることで経営者が株式を売却し、大きな利益を得る方法です。特に、後継者不足が深刻な問題となっている日本では、企業を売却することで事業の存続を図るケースが増えています。
中小企業庁のデータによると、M&Aによる成約件数は増加傾向にあり、大小問わず多くの企業がM&Aを選択しています。
M&Aのメリット
M&Aの最大のメリットは、上場に伴うコストやリスクを回避しながら、企業の成長や存続を図れることです。特に、上場企業が敵対的買収のリスクに晒されるのに対し、非上場企業はこうしたリスクを避けつつ、売却によって経営者が利益を確定させることができます。
また、M&Aによって得た資金を使って、新たな事業を展開する経営者も増えています。上場企業のような厳しい管理コストを避けつつ、事業を成長させる手段として、M&Aは非常に有力な選択肢です。
参考サイト:
まとめ
今回の記事では、IPOのメリットとデメリット、そして上場以外の選択肢について詳しく解説しました。企業がIPOを目指す理由は、資金調達の拡大や信用力の向上、そして経営者や初期投資家にとってのリターンが大きな魅力です。
一方で、IPOには多額のコストがかかり、上場後も管理コストや体制強化に多大な費用がかかります。さらに、上場がゴールとなってしまい、その後の成長戦略が停滞するリスクもあります。
上場以外にもM&Aなどの選択肢があり、特に後継者不足に直面する中小企業にとっては有力な手段です。企業が自社の成長戦略に合った道を選び、どの方法が最も適しているかを慎重に検討することが重要です。