BMキャピタルは筆者が2015年から投資ポートフォリオの軸に添えているヘッジファンドです。
BMキャピタルについては以下の記事で詳しく解説しています。
→【BMキャピタル体験談】投資家歴9年の投資家目線で評判のBM CAPITAL(ビーエムキャピタル)を徹底的にわかりやすく解説!
本日は実際に過去にBMキャピタルが投資した個別銘柄ベースでの事例について紹介していきたいと思います。
BMキャピタルでは投資家に向けて利益確定を行った銘柄についてレポートを出してくれます。
- 何故、その銘柄に投資を行ったのか?
- 何故、利益確定を行ったのか?
という金融のプロ目線での考えに触れることができるので大変重宝しています。
今回、例として取り上げるのは2018年第4Qのキクカワエンタープライズの事例です。
Contents
投資を実行したキクカワエンタープライズ(東証2部6346)とは?
キクカワエンタープライズは三重県伊勢市に存在する、製材・木工機械、プリント基板加工機、各種NC制御加工等の工作機械の製造・販売メーカーです。
正直、聞いたことがあるという方は少ないのではないでしょうか?
時価総額も54億円と大規模とは言えないレベルですね。キクカワエンタープライズは無借金経営と安定した収益が魅力の企業です。
BMキャピタルが投資を実行したのは2016年1月で平均買付価格は2,313円の時でした。
売却をし利益確定をしたのは2018年12月で平均売却価格は5,405円で上昇率は141%となっています。
因みに2018年10月に10株を1株に統合したため、投資した当時の平均買付価格は231円でした。
毎四半期のレポートの内容をもとに分析して行きたいと思います。
キクカワエンタープライズに投資を行った理由
キクカワエンタープライズはBMキャピタルが投資した当時においては圧倒的に割安な状態でした。
現金価値だけで株価を上回る価値
BMキャピタルが投資を行った直前の2015年11月に発表された第2四半期の貸借対照表を見てみましょう。
まずは資産ですが、「現金」と「受取手形及び売掛金」と「有価証券」の合計金額は71.6億円となります。
他の資産は確実に現金化できるか不透明性が残りますが、上記の3つは今すぐに現金化することができます。
つまり保守的にみた現金性の資産が71.6億円あるということですね。
一方、負債は合計で19.8億円しかありません。ご覧いただければわかる通り借入金がない無借金企業となっています。
わかりやすく図にすると以下の通りとなります。保守的な現金性資産から全ての負債を差し引いても51.8億円が残る計算となります。
つまり、投資した当時キクカワエンタープライズは保守的に見積もって51.8億円の現金を保有していたことになります。
発行済株式数から自己株式数を差し引いた実質的株式数は12,542,763株となります。
つまり1株あたりの現金価値は51.8億円÷12,542,763=412円となります。
株式統合前の当時の株価は231円でした。つまり保守的にみた純現金資産だけで株価を大きく上回った価値となっていました。
参照:ベンジャミン・グレアムの投資対象『ネットネット株』を分かり易く解説
安定した収益水準
株価の価値は現在保有している純資産価値と今後生み出す収益の価値の合計で算定されます。
以下は2007年からのキクカワエンタープライズの業績推移です。
(百万円) | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
2007/03 | 5,220 | 491 | 522 | 191 |
2008/03 | 4,657 | 331 | 349 | 187 |
2009/03 | 3,416 | -227 | -128 | -729 |
2010/03 | 2,569 | -400 | -195 | -236 |
2011/03 | 4,349 | 195 | 241 | 135 |
2012/03 | 4,227 | 131 | 189 | 227 |
2013/03 | 3,467 | 116 | 225 | 454 |
2014/03 | 2,955 | -169 | -8 | -5 |
2015/03 | 4,577 | 501 | 592 | 464 |
平均 | 3,937 | 108 | 199 | 76 |
以下は投資実行後の決算 | ||||
2016/03 | 4,360 | 498 | 518 | 377 |
2017/03 | 4,115 | 524 | 579 | 474 |
2018/03 | 4,005 | 387 | 431 | 425 |
2019/03 | 7,440 | 1,840 | 1,922 | 1,500 |
2020/03予 | 5,000 | 500 | 560 | 430 |
成長企業というわけではさなそうですね。
結果的に投資後利益も上昇していますが、投資実行時点の過去平均純利益は76百万円となっています。
ただ投資実行時点では成長企業とはいえないレベルだったので以下の前提で今後の事業価値を算定します。
条件1:利益は76百万円で一定という前提
条件2:10年間は企業が存続
条件3:割引率は10%を使用
純利益 | 割引後 | |
1年目 | 76 | 69.09 |
2年目 | 76 | 62.81 |
3年目 | 76 | 57.10 |
4年目 | 76 | 51.91 |
5年目 | 76 | 47.19 |
6年目 | 76 | 42.90 |
7年目 | 76 | 39.00 |
8年目 | 76 | 35.45 |
9年目 | 76 | 32.23 |
10年目 | 76 | 29.30 |
10年間の事業価値 (割引現在価値) |
437.69 |
つまり事業価値は437百万円となるので実質株数でわると34.89円となります。
よってBMキャピタルが投資した時のキクカワエンタープライズの保守的に見積もった株式価値は(ネット純現金価値412円+ 事業価値35円=447円)となります。
当時の株価231円の約2倍の価値があり圧倒的に割安な価格であることがわかります。十分に投資判断に踏み切るだけの価値がある状況ですね。
では次に何故利益確定を行ったのかという点について見て行きましょう。
キクカワエンタープライズを利益確定した理由
キクカワエンタープライズは2018年10月1日に10株を1株に株式併合したと同時に株価が上昇しました。
以下の平均買付価格は株式併合した前提での価格で当時は231円でした。
エンタープライズは株価が上昇基調の中でのニュースで急騰していきました。
では何故、BMキャピタルが5,405円でエンタープライズ株を売却したのかを報告書を元に説明していきます。
売却を決定した直前期の貸借対照表で先ほどと同様のバランスシート分析をすると以下となります。
ネット現金性資産は投資実行時に51.8億円から65.6億円に増加し安全性が増しています。
利益確定時の実質株式数は発行済株式数1,320,000から自己株の44,104株を差し引いた1,275,896株となっています。
ネット現金性資産65.6億円を実質株式数でわると1株あたりの現金価値は5,141円となります。
ここで思い返して欲しいのですがBMキャピタルが売却した平均価格は5,405円となっています。
つまり、保守的にみて現金価値を株価が1株あたり現金価値を上回ったので利益を確定したということになります。
実際には、その後も株価は上昇していますが天井を狙ってしまっては取れる利益も取り損ねることがあります。
確固たる理論を持って、条件を充足した場合に利益を確定するという方法が手堅い利益を得るためには非常に重要となってくるのです。
まとめ〜投資事例から見るBMキャピタルの投資手法〜
BMキャピタルが投資する対象は、現金性資産から総負債を差し引いた保守的なネット現金性資産だけで株価を上回っている銘柄です。
例えるなら、1万円が入っている財布が5000円で販売されているので購入しましたというようなものです。1万円入っている財布が5000円で売られていたら誰もが飛びつきますよね?
しかし、キクカワエンタープライズのような小型株では投資家から注目されずに低い価格で放置されてしまうことが往々にしてありうるのです。
このような市場から適正に評価されていない銘柄に目をつけ、実際に実質的価値に収斂する過程で利益を確定して手堅く利益を得ています。
BMキャピタルは私が知る限り本格的なバリュー株投資を行っている唯一のファンドです。
一般的な投資信託では投資金額が大きすぎて基本的には小型株に投資することができず、更に手間の問題から単純に低いPBRといった理由で投資を行います。
時間と手間をかけて詳細に分析するからこそ、安定して高いリターンを獲得することができるのです。