今回取り上げるのは人気の高いソフトバンクグループの社債です。人気の理由は国内で取引できる債券が殆ど存在しないからです。
定期的に発行されているのは先日取り上げた楽天グループの社債とソフトバンク社債くらいです。
ソフトバンクは2024年に入って再び社債を発行して注目を集めています。
また、2026年7月までに追加で上限1兆5000億円の社債発行の登録枠を設定しており今後も定期的に社債を売り出すことをほのめかしています。
ソフトバンクグループ(SBG)は17日、上限を1兆5000億円とする社債の発行登録枠を設定した。同日付で関東財務局に発行登録書を提出した。発行を予定する期間は2024年7月25日から26年7月24日までの2年間とした。調達資金は社債償還や借入金の返済、投融資や運転資金に充てる予定だ。
米国では個人での債券投資も活発で取引できる社債が数多く用意されています。
米国では社債の発行残高は右肩上がりに上昇していますが日本では社債は殆ど発行高が増えていないのです。
米国の社債は為替変動リスクを負うことになるので、為替リスクがない日本企業の社債はわかりやすく人気が高いのです。
前回分析した楽天グループの社債は経営環境が悪くリスクが高いとお伝えしました。
→ 評判だけど危ない?経営リスクが高まる楽天グループが発行する楽天モバイル債、楽天カードマン債やドル建社債のリスクや危険性を徹底評価!
では、今回分析するソフトバンクグループの社債はいかがでしょうか?
最新の情報も含めて詳しく分析していきたいと思います。
Contents
ソフトバンクグループ(SBG/9984)はソフトバンク(9434)とは別物
まず、皆さん勘違いしていると思うので最初に明らかにしておきたい事実があります。
皆さんがソフトバンクと聞いて思い浮かぶのは通信会社のソフトバンクではないでしょうか。
しかし、社債を発行しているのはソフトバンクグループです。ソフトバンクグループは通信会社ではなく、孫正義氏が運営するベンチャーキャピタルファンドです。
アリババやソフトバンクビジョンファンドを通して世界中のベンチャー企業に投資しています。
ベンチャー投資は失敗すると全損する可能性があります。つまり、非常にリスクの高い投資なのです。
この点については追って詳しくお伝えします。
2024年5月31日に発表されたソフトバンクグループの無担保社債
2024年5月31日にソフトバンクグループから無担保社債の発表(総額5500億円)がありました。条件は以下の通りです。
利率 | 年3.03%(税引前) 年2.414%(税引後) |
発行価格 | 100円(額面100円につき) |
発行日 | 2024年6月14日 |
償還日 | 2031年6月13日 |
利払日 | 毎年6月14日・12月14日 |
格付け | A(株式会社日本格付研究所) |
申し込み期間 | 6月3日-6月13日 |
このインフレ時代にたったの約3%程度の利回りだと実質リターンはマイナスですね。
実質リターンとは名目リターンからインフレ率を差し引いたものです。インフレというのは「お金」の価値の減少を意味します。
リターンから「お金」の価値の減少分を差し引くことで実質的にどれだけ「お金」が増えたかという指標が実質リターンです。
ソフトバンクグループの社債で3%のリターンを得ても、4%のインフレが発生している場合は実質リターンはマイナスになります。つまり貧しくなるのです。
昨今のインフレで実感している方も多いかと思いますが、日本でも本格的なインフレが発生しています。年率3%では全然生活を防衛することにはなりません。
ソフトバンクグループは日本の格付け機関から高い格付けを取得して低い利息で資金を調達して、リスクの高い株式に投資をすることでリターンを得る形態です。
正直いってソフトバンクグループが投資をしているリスクの高い企業群の顔ぶれをみると、たった3%で資金を貸しつけるのは割にあいません。(後述)
実際、世界的な格付け会社であるS&PグローバルはソフトバンクグループをBBに格付けています。同じくムーディーズもBa3としています。
これは、いずれも投機的な格付けです。危ない発行体であると権威のある格付け会社が格付けしているのです。
忖度なのか、根回しなのか日本の格付け会社から高い格付けを取得して低い利息で資金調達をするのは、やり口が汚いなと思ってしまいます。
あとでソフトバンクグループのリスクについては説明しますが、孫氏が投資判断を誤った場合、最悪元本が全て毀損してしまう可能性もあります。
ソフトバンクグループの社債より安全性が高く高いリターンを見込める投資先として筆者はヘッジファンドに投資をしています。
ヘッジファンドは株式市場の下落局面を回避しながら安定して10%近い利回りが期待できる投資先です。
以下で筆者が投資しているヘッジファンドを含めて魅力的なものを紹介していますので参考にしていただければと思います。
ソフトバンクグループ(9984)社債のリスクとは?
では、どのようなリスクがあるのでしょうか?
途中売却のリスク①:流動性リスク
社債として運用している資金を途中で売却したい方もいらっしゃると思います。
売買というのは買いたい人と売りたい人が存在することで成立します。
通常の環境であれば、買いたい人はいるので売買は成立します。
しかし、ソッフトバンクグループの経営危機が取りざたされるようになると売りたい人ばかりとなり売買が成立しない可能性もあります。
途中売却のリスク②:元本割れのリスク
また、途中で売却できたとした場合は時価での売却となります。
つまり、100万円で購入したとしても100万円で売却できるというわけではないのです。
社債価格というのは金利が上昇したり、信用力が低下した時には価格が下落します。
現在よりも日本国債の金利が上昇したり、信用力を表す格付けが低下した場合は社債価格は下落します。
あくまで7年間満期まで保有した時に元本が保証されている投資ということになります。
倒産で全損となるリスク
最も恐るべきリスクはソグロバンクグループの倒産リスクです。さきほども申し上げた通り、既に世界的な格付け機関による評価は投機的な水準の企業です。
企業が倒産する場合、まず倒産するまえに取引先や従業員に支払いを実行し、倒産となった時にはまず銀行借り入れを返済します。
銀行借り入れを返済したあとに残った金額で社債投資家に資金を戻していきます。
しかし、冷静に考えてください。倒産するような企業は取引先の支払いも滞るような状態の企業ばかりです。
銀行に返済をしたら基本は資金が残らないと考えるのが自然です。
ソフトバンクグループが行なっているのはベンチャー企業への投資です。
投資している企業が倒産したり、株価が暴落すると当然ソフトバンクグループ自体の経営も悪化します。
次の項目ではソフトバンクグループの経営が安泰なのかという点について決算資料を紐解きながらお伝えしていきたいと思います。
実質リターンがマイナスとなるリスク
最初にお伝えしたとおり仮にしっかり償還されたとしても実質リターンがマイナスになる可能性が十分にあります。
このインフレ時代に3%の利息では、資産を防衛するのに十分なリターンとはいえません。
ソフトバンクグループが高い利回りを出すことを目指してリスクの高い企業に投資をしているのであれば、最低でも5%の利回りは欲しいところです。
コラム:2023年クレディスイスで劣後債であるAT1債の価値がゼロに
劣後債の価値がなくなるという事例が丁度、2023年3月に経営破綻の危機に瀕していたクレディスイスがUBSに買収されるに伴い価値がゼロになりました、
以下はNHKの記事です。
経営不安にさらされていたスイスの大手金融グループ「クレディ・スイス」が発行した「AT1債」と呼ばれる特定の社債が無価値になるとされた問題で、金融庁は、今のところ国内の金融機関への影響は限定的だとみています。
「クレディ・スイス」は、「AT1債」という特定の社債を発行して世界の機関投資家などに販売していましたが、同じスイスの金融最大手の「UBS」に買収されることに伴って日本円でおよそ2兆2000億円に相当する「AT1債」が無価値になると発表しました。
世界の大きな銀行ですら劣後債の価値は蒸発する可能性があります。
銀行よりもリスクの高い投資を行っているソフトバンクグループの劣後債の価値がなくなるのも当然あり得るリスクとして捉えておく必要があります。
ソフトバンクグループの経営状態は危険なのか?
ではソフトバンクグループの経営状況について見ていきたいと思います。
業績は明らかに悪化している
以下はソフトバンクグループの純利益の推移です。
当期純利益 | |
2007/03 | 28,815 |
2008/03 | 108,624 |
2009/03 | 43,172 |
2010/03 | 96,716 |
2011/03 | 189,712 |
2012/03 | 313,752 |
2013/03 | 372,481 |
2014/03 | 527,035 |
2015/03 | 668,361 |
2016/03 | 474,172 |
2017/03 | 1,426,308 |
2018/03 | 1,038,977 |
2019/03 | 1,411,199 |
2020/03 | -961,576 |
2021/03 | 4,987,962 |
2022/03 | -1,708,029 |
2023/03 | -970,144 |
2024/03 | -227,646 |
理由はソフトバンクビジョンファンドの失墜です。以下はソフトバンクグループの純利益の推移とソフトバンクビジョンファンドの事業セグメント利益の推移。
このままソフトバンクビジョンファンドの評価額が落ち続ければ、巨額損失を負うことになります。
ではそうなった時に財務的には大丈夫なのかという点について次の項目から紐解いていきます。
バランスシートは直近は問題なきも数年後は安泰とはいえない
まずは資産を見ていきましょう。画像で見た後にわかりやすくまとめます。
負債については以下となります。
わかりやすくまとめると以下となります。
<2024年6月末時点>
現金及び同等物 | 5兆4989億円 | 有利子負債(流動) | 9兆1413億円 |
その他流動資産 | 5兆8601億円 | 有利子負債(固定) | 11兆5799億円 |
流動資産合計 | 11兆3590億円 | その他負債 | 12兆9099億円 |
ビジョンファンド | 11兆7479億円 | 負債合計 | 33兆6311億円 |
投資有価証券 | 9兆3787億円 | ||
その他固定資産 | 15兆3486億円 | ||
固定資産合計 | 36兆4752億円 | 純資産合計 | 14兆2031億円 |
過去に分析した時点でのデータもまとめておきます。
<2023年12月末時点>
現金及び同等物 | 6兆2000億円 | 有利子負債(流動) | 6兆6000億円 |
その他流動資産 | 4兆7000億円 | 有利子負債(固定) | 13兆5000億円 |
流動資産合計 | 10兆9000億円 | その他負債 | 12兆2000億円 |
ビジョンファンド | 10兆8000億円 | 負債合計 | 33兆3000億円 |
投資有価証券 | 8兆6000億円 | ||
その他固定資産 | 14兆7000億円 | ||
固定資産合計 | 34兆1000億円 | 純資産合計 | 11兆7000億円 |
<2022年12月末時点>
現金及び同等物 | 5兆8000億円 | 有利子負債(流動) | 3兆9000億円 |
その他流動資産 | 27兆円 | 有利子負債(固定) | 14兆2000億円 |
流動資産合計 | 9兆5000億円 | その他負債 | 13兆6000億円 |
ビジョンファンド | 10兆9000億円 | 負債合計 | 31兆7000億円 |
投資有価証券 | 6兆8000億円 | ||
その他固定資産 | 15兆1000億円 | ||
固定資産合計 | 32兆8000億円 | 純資産合計 | 10兆6000億円 |
<2022年3月末時点>
現金及び同等物 | 5兆2000億円 | 有利子負債(流動) | 7兆3000億円 |
その他流動資産 | 4兆8000億円 | 有利子負債(固定) | 14兆1000億円 |
流動資産合計 | 10兆円 | その他負債 | 14兆4000億円 |
ビジョンファンド | 14兆9000億円 | 負債合計 | 35兆8000億円 |
投資有価証券 | 3兆1000億円 | ||
その他固定資産 | 29兆5000億円 | ||
固定資産合計 | 37兆5000億円 | 純資産合計 | 11兆7000億円 |
現在の現金5兆4989億円は有利子負債(流動資産)は9兆1413億円を下回っています。
社債発行をしてまかなっていかないといけないのもうなづけます。
しかし、有利子負債(固定)は111兆5799億円億円も存在しています。
この資金を返済するためには投資している資産の値上がりなどがないと厳しい状態となっています。
また、その他固定資産には無形資産と「のれん」という実態のないものが5兆9000億円が含まれています。
実際には残り8兆3000億円たらずで債務超過となるといっても過言ではありません。
そして現在ビジョンファンドは11兆7000億円分ありますが、このまま評価額が半減してしまうと実質的に債務超過に陥る状態となります。
既に2022年3月の14兆9000億円から3兆円程目減りしていますからね。
今後、数年という目線でみた場合に債務超過に陥る可能性は否定できません。
また、今まで発行してきた社債の償還も迫ってきています。2028年3月期までに6兆円という規模になっています。
今後成長株はしばらく厳しい環境が想定される
ソフトバンクの経営の安全性で重要なの投資している銘柄の今後となります。
上場企業以外に多く投資しているので即座に損切りなどは出来ません。これが非上場株式への投資の難しいところです。
ソフトバンクグループはユニコーンといわれるような非上場なるも評価額が高い銘柄が多くなっています。
ユニコーン企業とは?
- 評価額が10億ドルを超える
- 設立10年以内の未上場のベンチャー企業
いわゆるグロース企業よりも、更に成長力を担保に価値の評価が行われる企業群となります。
これらの企業の中には利益が全く出ていないにも関わらず高い評価がついてしまっている企業が数多く存在します。
2010年代の金融緩和で市場でだぶついた資金が投機的に流れ込み実態とはかけ離れた金額がついてしまっているのです。
その高値を掴んでいるのが残念ながらソフトバンクグループです。
ソフトバンクグループは自らユニコーン企業のバブルを作り出して高値で掴んできたという側面があります。
市場に資金が余っている局面では、このような法外な評価も正当化されてきました。
しかし、2022年に入って状況は一変しています。
2021年後半から世界中でインフレが発生していることで欧米の中央銀行は金融引き締めを行いばら撒いた「お金」を市場から回収しています。
すると、今まで上昇してきた投機的な仮想通貨やNFTやグロース企業やユニコーン企業の価値が暴落していきました。
今まで蜃気楼的に積み上げられた価値が実態に戻り始めているということですね。
2024年2月現在、この流れはまだまだ継続しています。理由はインフレがまだまだ全然おさまっていないからです。
そして今後、現在の金融引き締めに加えて大不況が到来します。
高止まりするインフレと上昇する金利に世界経済が耐えられないからです。
実際に2023年3月にシリコンバレーバンクの破綻騒動で世界経済が揺れました。しかし、これは序章にすぎません。
大不況が訪れると企業の売上や利益も下落するので更にユニコーン企業の価値も暴落していきます。
ここからが本番なのです。
ここからの暴落次第ではソフトバンクグループが債務超過に陥る可能性も否定できません。
2024年以降を乗り切れるかは注目していく必要があります。
ソフトバンクグループ(9984)社債への投資はリスクリターンが見合っているのか?
投資をする際にはリターンだけでなくリスクも考えないといけません。
わずか年率2%程度のリターンを狙うために、ソフトバンクグループの今後の経営リスクをとるのは割りに合わないと筆者は考えています。
来年、ユニコーン市場が暴落すれば、最悪社債が紙切れになる可能性もあるからです。
倒産となってしまえば元本全額が損失となってしまいます。
リスクとリターンが見合っていないのです。
筆者はどのような環境でも安定してリターンが狙えるヘッジファンドに投資をして資産形成を行なっています。
以下で詳しくお伝えしていますのでご覧いただければと思います。